厳選された本

世界銀行への出資額はアメリカに次いで第二位であるし、ODAの規模も世界有数だ。
「それなのに日本の格付けは低過ぎる」と財務省は怒り、二○○二年四月には、各格付け機関に「意見書」を出し、格付けの根拠を示すよう求めた。 政府の言い分は理解出来る。

この際、議論をするのは良いことだ。 アメリカが巨大な「双子の赤字」で苦しんでいた時代も、最上級の格付けを付与されていたことを考えると、アメリカの格付け機関に公平性があるのかとの疑問は当然に湧く。
だが、格付けとは結局、定数的なものでなく、あくまでも定性的なものだ。 数字の比較論だけでなく、今は日本の構造改革や不良債権処理の遅れが大きく問題視されているのであり、それを打ち消すだけの材料を日本側が用意しなければならない。
このような状況になるまでに、政府はもっと早く、国際市場に対して分かりやすい形で、日本の努力を訴えるべきであった。 K政権への期待が、世界の金融市場でも大きかっただけに、その後の停滞で、失望感が増幅された面もある。
国や企業にとって格付けは単なる形式ではない。 国際信用と資金調達のコストに影響する重大な指標である。
このことへの日本の認識が、バブル経済崩壊以降、ずっと甘過ぎたのではないだろうか。 金融市場が世界各国の金融機関の有機的で密接なつながりで成り立っている以上、日本の金融機関だけで通じるルールではなく、世界の金融機関にも理解出来るルールで改革を進め、不良資産を処理すべきであった。

残念ながら、海外から見ていると、日本のやり方はいつも遅いし、分かりにくいのである。 かつて私が勤務していた欧州系銀行は、「トリプルA」を取得していた。
それは、絶大なる信用につながり、会社もそれを大いに宣伝していたが、ある時、「ネガティブ・ウォッチ」(「格下げの方向で見直す」という意味)にされてしまった。 銀行側はあわてて、「我が行の財務の健全性は全く損なわれていない」と種々反論を試みたが、結局、一ランク格下げされた。
この時の経営陣の落胆は気の毒なほどだった。 私は、改めて、最上級の「トリプルA」格の権威の重さを痛感した。
日本の「トリプルA」があっという間に五ランク下の「A2」格まで落ちたことを、西洋社会で小気味よく思っている向きがないとはいえない。 それまでの奇跡的な経済発展に対する嫉妬が当然あったからである。
格付けが大きく引き下げられたことで、我々、海外の金融界で働く日本人は、心の拠りどころをひとつ失った気持ちになった。

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